28.   地上局における円偏波アンテナの有効性について(2019/3/16 JAMSATシンポジウム 講演資料)       2019/5/4

                   (京都市 嵯峨嵐山 ホテルビナリオ嵯峨嵐山)   

ppt1.何年か前のニューズレターに「衛星通信するには円偏波アンテナが良い」と書きました。

それは、
①自分が円偏波アンテナを使って衛星通信していて何の不都合もなかった。
②衛星のアンテナがダイポールやモノポールの場合は、スピンして偏波面が変動しても円偏波アンテナはその変動に対応している。

ただし直線偏波アンテナに比べて3dBの変換損失が生じる。

 

これらの思いはデーターに基づくものではなく、昔の書籍「アマチュアの衛星通信」日本AMSAT編(昭和29年)や主観的なものでした。

そこで機会があれば、客観的データーを取得して確認したい考えていました。

そんな折にJA1OGZ金子OMが2018/2月発行のニューズレターにIC-R8600で5.8GHzを使用する想定の試用記が出ていました。

それにはSメーターとしてS、dBm、dBμが表示されると言うことでした。

早速カタログ等の資料を調べたり、アイコムに問い合わせたりしました。

外部にこのSメーターをDC0~5V(最大8V)で出力されていることが分かりました。

以前はアナログ式Sメーターの電圧を外部に出して使用したことも有りましたが、最近の無線機はデジタルSメーターとなってしまったので出来なくなってしまいました。

 

とりあえず1台を購入して使用してみました。

Sメーター出力を2チャンネル・データーロガー(Voltage Recorder VR-71)(以下VR-71と表記)に入力し、パソコンにUSB接続して付属アプリで表示させました。

FO-29のCWビーコンがAOS→MEL→LOSまで信号強度に応じてグラフが出てきます。

信号の変化が一目瞭然に分かります。これは素晴らしい。

しかしこの信号強度は円偏波アンテナと直線偏波アンテナと同時に受信しないと相互の関係が見えてきません。

そんなことも有って、もう一台追加購入してアンテナ、プリアンプ、受信機の2セットのデーターをVR-71に入れパソコン2台に入力しました。

 

ppt2.が受信システム系統図です。アンテナは適宜変更しますので地上高は3mです。

これをデュープレクサを使ってV/UHFを合成して2本の同軸ケーブルでシャックに引き込み2台のIC-R8600にそれぞれ引き込みました。

 

ppt3.はその写真です。ブームの両端に145MHz、中側に435MHzをクロスと垂直偏波アンテナを設置しました。

ローテーターはノーマルモード、フリップモードに対応しています。(同軸ケーブルの引き回しに注意)

なお、VR-71付属のアプリのグラフは電圧表記ですがテキストでも出力されているのでエクセルでdBμ表示のグラフにもできます。

 

ppt4.はこの受信アンテナの435MHz14エレクロス八木と14エレ垂直偏波アンテナの軸比特性です。

受信アンテナに向けて6エレメント八木アンテナ(直線偏波)を送信として自作ローテーターで軸周りに回しています。

緑線のクロスアンテナの軸比は2.7dBになっています。当然ですが赤線の14エレ垂直偏波アンテナは8字特性になっています。
このやり方で昨年の6月から20種ぐらいの衛星を1,000本ぐらいデーターを取得しました。

 

ppt5.ここからはこの設備で受信した信号強度グラフです。

左側がAOS、真ん中がMEL、右側がLOSです。

グラフの縦目盛り(横線)は1目盛り0.5Vで8.5dBμに相当します。

2目盛りで17dBμ、3 目盛りで26dBμぐらいです。
衛星からの信号はCWビーコンまたはFSK,GMSKをUSBで、FMモードの衛星はFMで受信しました。

SSBでは10dBぐらいの変動では音の強弱は感じません。

20dBの変化だと少し小さい(大きい)かな、30dBではメリットが2程度に落ちます。

ただし全体のゲインによります。一番上のグラフの衛星はXW-2Aで400mm□、3軸制御内蔵です。

GMSK信号をUSBで受信しました。

 

周波数は145MHz帯で緑線が6エレクロス八木、赤線が7エレ垂直偏波アンテナです。

赤線はスピンによると思われる変化をしていますが緑線の円偏波アンテナはほとんど変動していません。

真ん中のグラフもXW-2Aですがアンテナが7エレ垂直偏波と水平偏波アンテナです。

両方共に少し低下しているところも有りますが変化の無い信号となっています。

円偏波アンテナで無くてもこのように安定して受信できることが有ります。

 

一番下のグラフは同じくXW-2Aですが緑線の円偏波アンテナはほとんど変動していません。

しかし赤線の7エレ垂直偏波アンテナは天頂付近で大きな落ち込みが有ります。

これは方位ローテーターが天頂付近で反転し偏波面が変わること及びアンテナの追尾遅れによるものと思われます。

この所の詳細は最後の方で説明します。

XW-2A及び,B,C,D(250mm□)は3軸制御しているためか、ほとんどこの3つのパターンになっています。

いずれの場合も円偏波アンテナでは常に安定した受信が出来ています。

EO-88も姿勢制御しているか不明ですが同じような信号強度データーになっています。

 

ppt6.はXW-2Fで110mm□、磁気トルカのみです。

非常にスピンが早く角速度は30deg/sぐらいで安定して回っているようです。

SSB/CWによるQSOは5~10秒ぐらいなのでこれでもあまり変化は感じません。

地上局アンテナは、7エレ垂直・水平、6エレクロスのいずれも同じように変化の激しい信号でした。

私はXWシリーズが上がった当時は頻繁にこの衛星を利用していました。

 

ppt7.はCO-55のグラフです。

これは2003年に東工大が上げたもので、今は無変調キャリアを出し続けています。

周波数、AOS/LOS及ドップラーシフトが一致しているのでCO-55と特定しました。

上のグラフは2018/12/14までは早いスピン(30deg/s)でしたが、下のグラフは9日後の2018/12/25に測定したらスピンが1deg/s以下になっていました。

その後は少しづつ早くなり2月末時点では10deg/sになっています。

理由は不明ですがこのように突然変化する場合もあるようです。

 

ppt8.はLO-19のグラフです。

この衛星は1990年に上げられたもので、今は無変調キャリアを出し続けています。

特徴的なのは衛星から円偏波で電波を出しているように感じます。

上のグラフは8エレ垂直偏波アンテナと6エレクロス八木(右旋円偏波)、6エレクロス八木(左旋円偏波)で測定し2つのデーターを組み合わせた物です。

紫線が左旋円偏波アンテナ、赤線が垂直偏波アンテナ、薄緑線が右旋円偏波アンテナです。

AOSからMEL付近までは衛星からの電波は左旋円偏波で来ていてMELからLOSは楕円偏波または垂直に近い偏波になっていると思われます。

衛星が円偏波の場合は地上局のアンテナは直線偏波アンテナ(赤線)で良いことになります。

円偏波の場合はMEL付近で左右の円偏波を切り替える必要が有ります。

 

ppt9.はFO-29のものです。

この2本のグラフは日にちが違いますが、AOS,MEL,LOSの時刻、方位はほとんど同じです。

しかし信号強度グラフは全く違っています。

FO-29には永久磁石は搭載されていると思われますが、その姿勢は不規則になっていると思われます。

なお、下側のグラフの左側(AOS)付近に赤線が立ち上がっているのは、ローカルの違法局(FM)による猛烈な混信です。

4分近く続いていました。FO-29は同じ信号強度パターンは出てきませんが長期に観測すれば繰り返しが有るかも知れません。

 

ppt10.もFO-29ですが少し特徴的なデーターになっています。

この時は6エレクロス八木の左旋円偏波アンテナと右旋円偏波アンテナで同時測定をしています。

ここではMEL付近で右旋円偏波が最大、MELとLOSの中間付近で左旋円偏波が最大になっています。

伏角でかなり下を向いていると考えられますがかなり天頂を通り過ぎてからアンテナの裏側が見えて偏波が左旋円偏波となった可能性が有ります。またLOS少し前では垂直偏波になって信号強度が大きく上下しています。

このようなデーターを数多く集めれば衛星の動きが見えてくるかも知れません。

 

ppt11.はFO-29の外観でアンテナが地球に向いているかどうか不明です。

 

ppt12.はCAS-4A及び-4Bです。

一番上のグラフは八木アンテナを水平偏波アンテナと垂直偏波アンテナで受信したものです。

偏波に関係無く信号強度は安定しています。
真ん中のグラフも同じアンテナ構成ですが天頂付近で10dBほどの落ち込みが有ります。

地上局アンテナの偏波の反転によるものなのか追尾遅れによるロスが不明です。

一番下のグラフは6エレクロスアンテナと7エレ垂直偏波アンテナによるもので一番上のグラフと同様に信号強度は安定しています。

偏波の影響は無いように感じています。衛星のアンテナはモノポールだと思います。

 

ppt13.はAO-73のものです。

一番上のグラフは緑線が6エレクロス、赤線が7エレ垂直アンテナです。

AOSからMELまでは両アンテナ共に上下に変動しています。

MEL付近から向きが変わったのか、円偏波アンテナの信号強度は安定しましたが、垂直偏波アンテナは継続して上下に変動しています。

この衛星のスピンは、昨年の9月からの全日照によって角速度が大きくなり、トラポンを適宜停止してコントロールしているようです。

一番下のグラフは2018/6月からの角速度で、30deg/s以上にしないようにしているようです。

なおこの角速度は変動を2山で1回転として計算していますがDK3WNマイクさんのデーターともほぼ一致しています。

これは衛星のアンテナを8字特性としています。

 

ppt14.は、お待ちかねのNEXUSです。

一番上のグラフは打ち上げた次の日の201/1/19日09:26の信号強度グラフです。

緑線が円偏波アンテナ、赤線が垂直偏波アンテナです。

円偏波アンテナの変動がやや少なくなっています。

スピンは非常にゆっくりしています。

角速度は1~3°deg/sぐらいです。

真ん中が22日20:32のものでスピンはかなり早くなっています。

緑線の円偏波アンテナがAOS~MELでやや変動が少なくなっていますがスピンはますます早くなっています。

角速度は12deg/s程度です。

下のグラフは緑線の円偏波と赤線の直線偏波アンテナを上下に分けて表示しています。

円偏波は天頂付近で変動が少なくなっています。角速度は32deg/s付近になっています。

この角速度は日大のデーターとほぼ一致しています。NEXUSは変動の山は1山で1回転としています。

 

ppt15.はFox-1シリーズのAO-85(FMモード)の信号強度グラフです。

比較的なだらかに安定しているとき、激しく上下している時があり安定していません。

特に145MHzのダウンリンクはアンテナゲインが435MHzに比べて小さいこともあり激しいQSBに悩まされています。

QSOはそのタイミングを見て行っています。

 

ppt16.はAO-91の信号強度グラフでAO-85と同じような動きになっています。

一番上は2018/11月、中のグラフは12月です。ほとんど同じようになっています。 

 

ppt17.はAO-92の信号強度グラフでAO-91と同じような動きになっています。
上側のグラフは緑線が7ele水平偏波アンテナ、赤線が7ele垂直偏波アンテナです。
信号強度はほぼ水平と垂直が交互に上下しています。

これをステレオベッドホンの左右で聞ききます。

少し慣れると左右で補って聞こえます。

ただし信号強度が弱くなるとFM特有のノイズが強くなります。

信号強度に比例してノイズも弱くなるとFBです。

スケルチと組み合わせて聞きましたが、ON/OFFが極端なので聞きずらくなってしまいます。

なだらかにON/OFFすると良いのですが。音声ダイバシティと言うことでしょうか?。

しかしそのために2システムの受信環境を整えるのはコスパが悪すぎます。hi

 

ppt18.今日の最後の信号強度データです。

今から45年前に上げたAO-7のBモードの信号強度グラフです。

145.9705MHzで無変調キャリアを出していますが非常に弱くて聞こえないときも有ります。

1976年に私が初めて衛星通信をしたのがこのAO-7でした。

遠距離はVK4TL局(SSB,オーストラリア)でした。10秒間ぐらいのチャンスだったと思います。

 

ppt19.からは、アンテナコントロールについてお話します。

前の方で追尾遅れ、天頂付近のアンテナの反転によって偏波面が反転する話がありました。

CALSAT32には衛星を追尾するのに「自動N(ノーマルモード)」と「自動F(フリップモード)」があります。

この図のように「N」は北基準で左右に追尾します。「F」は南基準で左右に追尾します。

 

ppt20.は天頂付近を通過する時の拡大です。

南から来た衛星は天頂付近で南から西へ北東へと急回転します。

この時はローテーターによっては追従しなくなり遅れます。

またアンテナの偏波面も方位に合わせて回転し約150°も回転(反転)します。

そのために天頂で一番近いのに信号が大きく落ち込むことが有ります。

 

ppt21.はその状態を表したものです。

通常は天頂付近で偏波面が反転します。

これは「N」でも「F」でも同じです。

一方で天頂付近で反転させないようにしたいのなら、「N」でMEL付近まで来たら「F」にするとアンテナはそのまま反転しないで(非反転)追尾します。

もちろん、「N」「F」反対の場合もあります。

私の場合はMEL80°以上の場合は方位ローテーターの回転を止めるスイッチを設けて適宜ON/OFFしています。

アンテナの半角値が狭い場合はロスが出ます。

 

ppt22.はローテーターの2社の性能比較です。

方位が10°/sぐらいであれば追尾遅れが生ずることは少なくなります。

G-5500の場合は5°/sなので天頂付近では追尾遅れがでます。

 

ppt25.ご静聴ありがとうございました。多くの信号強度データーが有りますのでもう少し定量的な評価が出来ればと思っています。

時間が少しありますので、余談を!

 

ppt26.実は先週の9日の土曜日にリーマンサットの人達がキューブサットのアンテナ調整のために我が家に来ました。

私は350mm及び450mmクラスの衛星のアンテナの調整はしたことがあったのですが、CubeSATは初めてです。

そこで前々から思っていたのですがCubeSATの145MHz帯のモノポールは本体が対角の最遠地点でも50cm以下で、

①1/4λより小さくてグランドとして十分に機能しないのではないか?。

②そこにSWRを測定するために同軸ケーブルを接続すると,その同軸ケーブルがアンテナにとっては格好のグランドとなってしまうのではないか?。

③従って調整しても同軸ケーブルを外すと違った値になってしまうのではないか?。

と思っていました。

 

そこで事前にシミュレーションしてみました。それがこの図です。

結論は測定用同軸ケーブルを接続しても影響が一番少ないのは1/2λ×n倍(短縮率は関係しない)の長さにすることであることが分かりました。

赤線グラフがSWR値を10倍した値です。10がSWR1.0、40がSWR4.0です。1/4λ×奇数倍付近では最悪になりSWR4近くになります。

この状態で調整しても同軸ケーブルを外すと最悪になってしまいます。

実際の調整ではどうでしょうか。皆さんはどのように思われますか??結果は??。まだです。
最終的にはCubeSATにハンディ機と小型SWR計を入れて送信状態で空中に高く上げて双眼鏡で「のぞく」ことでしょうか!別途検討したいと思います。なお435MHzでは影響は少ないと思います。

いずれ実機でやってみたいと思っています。

 

その後に実験して確認しました。詳細はここに掲載しました。

さらにSWRが悪いと信号強度はどうなるか確認しました。SWRの違いによる信号強度の違いはここです。

 

ppt27."余談の余談"ですが、
「地上局の円偏波アンテナは左旋円偏波、右旋円偏波のどちらがよいか!」と聞かれることがあります。

「回答」は"どちらでも良い"と言っています。

円偏波は1Hzに1回転します。従って435MHzでは4億・・回/secとなります。それに比べて衛星のスピンは0.1回/sec以下です。

ちなみに,ここでは円偏波アンテナ相手に6エレ八木を2rpm程度で右回転、左回転して見ましたが差は見えませんでした。hi

 

ppt28.は円偏波アンテナの軸比測定用に作った回転機構です。

当初は模型用の減速ギヤ-を使っていましたが、今は2rpmの1,000円程度のギヤ付きDCモーターを使って、300円ぐらいのPWM速度制御器でコントロールしています。

下の写真は1200MHzの9エレクロスアンテナです。

軸比は1.5dBで一昨年のJARL自作品コンテストに出しましたが選外でした。

このアンテナを手持ちして、AO-92/LモードでQSOしています。

18エレメントも有りますがパターンがブロードな9エレメントの方がQSOしやすいです。

 

ppt29.はCATVの漏れ電波が衛星通信の障害になっています。

端末処理の不良ですが放置されています。75Ωで終端していれば漏れはありません。

漏えい電界強度の許容値 : 34dBμV/m以下と決められています。

我が家は特定の方向ですがアマチュア無線機でS9です。

皆さんの所で、ノイズが多いと感じたら一度調べてみてください。CATVの線が有るところは要注意です。

 

ppt30.は、IC-R8600のSメーターのCD出力特性です。