29. AMSAT FOXで始める衛星通信(JARL NEWS 2018夏号2018/7/1発行 掲載原稿) 2019/5/20
一部分変更追加しています。
「いきなり! 衛星通信に挑戦してみませんか!」
AMSAT FOXで始める衛星通信
「モービル機やハンディ機でも工夫次第で楽しめます」 JA1CPA 中村英治
ソーラーサイクル24の末期になり,太陽黒点が低迷してHF帯のコンディションはパッとしない状況が続ていています。
一方, 超小型衛星は日本を含めて世界各国から数多く打ち上げられています。
アメリカのAMSAT(アマチュア衛星通信協会)ではFox-1シリーズとして2015年から2018年にかけてAO-85,AO-91,AO-92が打上げられています。このFox-1シリーズの衛星は1辺が10cmの正方形のキューブサットと云われている衛星でレピーター機能が搭載されています。
一つの衛星に通常のFMモードが1チャンネルあります。
435MHz帯でアップリンク(衛星に向けて送信)すると簡単に145MHz帯でダウンリンク(衛星が地球に向けて送信)してきます。
あたかも近くにあるレピーターのようです。
それでいてこの衛星はISS(宇宙ステーション)より高い高度の500~800kmもあり宇宙からの電波を感じることができます。
難しい話は後にして、いきなり衛星通信をやっちゃいましょう!
■手軽な設備でチャレンジ可能、アンテナ、無線機、など
Fox-1シリーズの衛星の周波数関係は表1のようになっています。(AO-85は停波しています。2019/5/20)
ここに掲載されている衛星(AO-85,AO-91,AO-92)は動作が不安定になっています。2022/6
ここでは衛星AO-92を使って衛星通信する例を紹介します。
できるだけ皆さんが持っている設備をそのまま使って衛星通信をするようにしたいと思います。
↑ISS ↑ 145.990 ↑ 437.800 追加 2024/08/27
まずアンテナは2~3エレメント八木を固定設置する場合、3~5エレメント八木を方位のみ回転する場合及び既設の八木やGPを使う場合を紹介します。 無線機は一般的なV/UHF同時受信できるFMモービル機を自宅で使う場合、モービルから運用する場合、V/UHFの付いたオールモード
表1 FOX-1シリーズの周波数(FMモード) 機、FMハンディ機(5W)の例を紹介します。
サテライトモード(衛星通信モード)の付いた無線機は使いません。モービル機、固定機は20Wでも可能ですが50Wの方がよりQSOしやすくなります。 2022/6月現在:AO-91,AO-92は不安定に動作しています。(時々動作する状態)
■衛星の軌道を知ろう!
ます最初にQSOする衛星が何時何処を通るか知る必要があります。
一般のレピーターが何処に設置されているか知ることと同じです。
しかし衛星は動いていますので少し違いがあります。
ここではJAMSAT(日本アマチュア衛星通信協会)のホームページで公開しているデータを使う方法を紹介します。
JAMSATのホームページの「衛星追跡」をクリックすると「日本各地の衛星通過時刻の予報」図1が出てきます。
↑ 図1 日本各地の衛星通過時刻予報 ↑ 表2 衛星通過時刻の予報
この図1の自宅に近い地域の●をクリックすると表2の衛星の一覧が出てきます。
表2の左側のオスカー名(衛星の名前)の欄のFox-1D (AO-92)をクリックすると表3のようなAO-92の詳細なデータが出ます。
↑(表2の下から3番目)
この表3はAO-92が来る時刻や方向が書いて有ります。分かりやすくするために赤線で囲った部分と左矢印のデータを罫線を入れて説明を加えたのが表4です。
↑ 表3 衛星通過時刻の予報
この表4のデータは左から2018年4月28日(土曜日)20時38分01秒に地平線から見え始める時刻(AOS)です。
20時43分42秒に最大仰角(MEL),になり 20時49分26秒に地平線に見えなくなる(LOS),ことを示しています。
次のDuration of Passは衛星が見えている時間を示します。
さらにAzimuth at AOSは衛星が見え始めた時の方位158°を示します。
方位は北を0°として右回りで東が90°、南が180°、西が270°、北が360°(0°)になります。
↑ 表4 表示データの各項目の内容
Azimuth at MELは最大仰角の時の方位76°。Azimuth at LOSは見えなくなった時の方位354°。Peak Elevは最大仰角の角度55.6°(見上げた角度で
,地平線を0°、天頂が90°)です。*印はQSOが最適なことを表しています。
ここでは,夜間はQSOしやすいので選んでいます。
もちろん日中でも表3のPeak Elev(最大仰角)が30°以上であればQSOは十分に可能です。
特に日曜日はAO-92以外の AO-91 を含めて混信は少なくなりQSOが容易になります。
衛星通信の世界もHFとは別の意味で混信があります。詳細は最後の方に記述します。
今回はこの軌道のAO-92を受信しQSOすることにします。
なおここでは2018年4月28日を選びましたが運用する日時に合わせて表3から選定してください。
このホームページは毎日更新されていて見た日から常に10日間の予測が出ています。
10日間以上の予測は時刻等の違いが大きくなりますので最新のデータを見てください。
なおAO-92の通常のアップリンク(地上から送信)は435.35MHzですが,日曜日11:00(JST)から月曜日の11:00までは1267.35MHzになることがあります。(2018/5/5現在)
表3の詳しい用語,書式などの説明は下記のURLに出ていますので参照してください。
https://www.jamsat.or.jp/pred/sat_doc.html
図2はこのAO-92が飛翔するイメージです。(赤線のように飛翔)
↑図2 衛星の軌道のイメージ(JARL NEWSより)
■自宅から運用してみよう!
最初の例は、固定設置するアンテナにナガラ電子のDO-11(144MHz/430MHz 2バンド2エレメント八木)(図3)使います。
無線機はモービル機のV/UHF同時受信になっているアイコムの IC-2730、アルインコ DR-735も使えると思いますが、ここではケンウッドの
TM-D710の50W機を使います。
↑写真1 DO-11設置例 ↑写真2 ↑写真3 ↑図3 DO-11概略寸法
■アンテナの設置は次のようにします。
①マストは3mぐらいでDO-11を2階のベランダに上向きに屋根の上に出して固定します。(写真1,
最良の方法)
②エレメントの方向は南北にします。指向性は東西になります。(写真1)
③2階ベランダから上に出せない場合は,できるだけ東又は西向きで30°ぐらい上向きに設置します。(写真2,写真3)
この場合は建物の裏側の信号は受信できませんが、もし前側に建物等があれば建物反射で送受できる場合があります。
④アンテナと無線機の間は5D-FBなどの同軸ケーブルを出来れば10m以内にして接続します。
■モービル機の設定要領
V/UHF同時受信モービル機の設定は次のようにします。
①V/UHF同時受信モードにします。
②V/UHF共に周波数ステップを5kHzにします。
③VHFを受信にして周波数を145.880MHzにします。
④VHFの受信スケルチをOFFにします。
⑤VHFの受信ボリュームを8時方向ぐらいにします。
⑥VHFの受信は必ずヘッドホンを使用します。
⑦UHFを送信にして周波数を435.350MHzにします。
⑧UHFの送信トーン設定を67.0Hzにします。
↑写真4
TM-D710の設定例 ⑨UHFの送信出力を50Wにします。
⑩UHFの受信ボリュームは0にします。
⑪アンテナからきた同軸ケーブルをアンテナ端子に接続し,電源をONしてVHF
を受信します。
■いよいよ受信です。タイミングが合えばQSOです!
この衛星は2018年4月28日,20:38に方位158°(南南東)の方向から見え始めます。(衛星は目では見えませんが電波が届くという意味です)
そして見え始めから北上し5分後の20:43ごろに方位76°(東)、最大仰角55.6°を通過します。
その後は20:49に方位354°(北)で見えなくなまります。
20:38になったら受信を始めます。始めは「ザー」と云うノイズだけが聞こえるでしょう。
受信を始めて2~3分経過すると衛星から電波が届くようになり「ザー」と云うノイズが「ザーッ,------,ザーッ」とノイズが切れて静かになったりノイズが大きくなったりして、時間経過と共にノイズが少なくなって静かになってきます。
SメーターがS2~4と変化しながらノイズが消えてQSOしているのが聞こえてくるでしょう。
S4~6以上ぐらいになったらQSOできる可能性があります。
基本的にはHF帯のQSOと同じです。
タイミングを見てコールしましょう。ローカルQSOよりは大きな声でコールします。
コールした自分の声がヘッドホンから聞こえてくれば相手にも聞こえているはずです。
自分の電波が衛星に届いてレピーターで送信されてきたのです。
宇宙から自分の声が聞こえてきました。感激の一瞬です!!!
自分が聞こえなくても相手が良いアンテナを使っていれば応答があります。
相手局がCQ又は他局とのQSO終了した時に、
自局:「相手コールサイン1回、(こちら)自局コールサイン1回(フォネティックは ややゆっくり)」3~5秒ぐらい聞いて応答が無かったら、
再度コールします。
これで応答が無かったら一旦呼ぶのを停止します。
信号は浮き沈みが激しく、上がって来たタイミングを見てコールしましょう。
また混信があると届かない場合があります。
応答があったら次のように続けます。
相手局:「了解、自局コールサイン1回、(こちらは)相手コールサイン1回、59です,どうぞ」
自局:「了解、(こちらは)自局コールサイン1回、59です,どうぞ」
相手局:「了解しました」
と出来れば完璧です。
なお,この衛星通信の音声は常に録音しておくと時刻等を書き忘れた時に調べるのに便利です。
信号は大小と激しく変動します。強くなるピークを狙ってQSOしましょう。
QSO途中で相手のコールサインやRSが確認できなかった場合は、1回聞き直しして了解できなかったら一旦QSOを中止します。
中止後10秒以上経過または他局とのQSO終了後に相手局を再び呼び出してQSOを再開するようにしましょう。
相手局と他局のQSO終了が確認できなかったら5秒ぐらいワッチして他のQSOが聞こえなかったら相手局を呼び出すようにしましょう。
この夜の東側を通る衛星はあまり混信が無いので信号の浮き沈みのタイミングが合えば比較的スムーズにQSOできると思います。
衛星通信と云うとドップラーシフトの話がでます。
詳細は後述しますがこのAO-92を含むFox-1シリーズの衛星はドップラーシフトを自動補正して受信する機能(AFC)があります。
従って地上側では規定の周波数を動かす必要はありません。
まさに近くに有るレピーターの感覚です。
ファーストQSOが終わると他局が自局を呼んでくると思います。
新しい局は小さなパイルになると思います。
落ち着いてゆっくり確実にQSOしましょう。
ただしアンテナが固定していますので多くのQSOは望めません。
このアンテナを2階ベランダから外に出せない場合は,東又は西向きにして上向き30°ぐらいに水平方向に設置します。
この場合はアンテナの向いている方向(仰角10~40°)を衛星が通過するときはQSOできる可能性があります。
SメーターがS4以上になったらコールしてください。
■V/UHFの付いたオールモード機の設定要領
次はオールモード機の場合を説明します。
アンテナは前記の状態で無線機をV/UHFの付いたオールモード機でやってみましょう。
前記のモービル機では435MHz帯でアップリンク(送信)しながらその信号が衛星に届いて145MHz帯のダウンリンク(受信)で確認できました。
本来の衛星通信は,このようにアップリンク(送信)した信号をダウンリンク(受信)で聞きながらQSOします。
これはCW/SSBでは必須ですが、FMで周波数固定(衛星でドップラーシフト自動補正)の場合は必ずしも必要としません。
無線機はヤエスのFT-991を使います。
FT-991の144MHz帯と430MHz帯をスプリット設定してFMモードで衛星通信します。
①V/UHF共にモードをFMにして,スプリット釦を押します。
②VFO-Aを145.880MHz、VFO-Bを435.350MHzに設定します。
これで435MHz帯が送信、145MHz帯が受信になります。
③VFO-A(受信)のスケルチをOFFします。
④VFO-B(送信)のトーン設定を67.0Hzにして出力を50Wにします。
↑写真5 FT-991の設定例
⑤ヘッドホンを接続します。
⑥アンテナからきた同軸ケーブルをアンテナ端子に接続し電源をONします。FT-991のアンテナコネクターはV/UHF共用なのでDO-11からの同軸ケーブルはそのまま接続します。
■いよいよ受信です。そしてタイミングが合えばQSOです!
この後は前記のモービル機と同じです。S4以上になったらQSOできる可能性があります。
基本的にはHF帯のQSOと同じです。
タイミングを見てコールしましょう。
前記のモービル機と同じ要領ですが一番違うのは自局のダウンリンク(受信)を聞くことが出来ません。
従って相手が応答しない場合はダウンリンク(受信)が無いと考えます。
タイミングをみて再呼出をしましょう。
アンテナを固定していますので多くのQSOは望めないのは、先のモービル機の場合と同様です。
■アンテナの方位を回転する!
無線機はモービル機又はV/UHFの付いたオールモード機のどちらでもかまいません。
アンテナをもう少しゲインのあるアンテナにして方位だけを回転して衛星を追尾します。
HF帯のアンテナがローテータで廻るようになっていればそのマストにアンテナを付ければよいでしょう。
たとえば,アンテナは第一電波のA1430S7 (144/430MHz2バンド3エレメント/5エレメント八木)
(写真6)を使います。それをローテータで回転して衛星を追尾するようにします。
アンテナは仰角を40°(0~40°設置可能)にマストに固定設置します。(写真6)
アンテナを「見え始め」の時刻と方位に合わせて、後は1分間に20°程度をローテータのスイッチを押して衛星を追いかけます。
アンテナのビームがブロードなので十分に追尾できると思います。
この方法であれば仰角30°以上の衛星はかなりQSOできると思います。
ただし強い混信があると衛星まで届きません。
無線機の設定や使い方は前記と同じです。
衛星を追尾するには「衛星追尾ソフト」を使うと便利です。
↑写真6 A1430S7の例 フリーソフトでは CALSAT32 が有名です。使用方法はWeb(後述)にいろいろ紹介しています。
■すでに設置してあるV/UHFビームアンテナを使う!
無線機はモービル機又はV/UHFの付いたオールモード機のどちらでもかまいません。
無線機の操作は前記と同じです。
ただ既設のアンテナによって次のように変わると思います。
①144MHz8エレメント以上/430MHz15エレメント以上の場合は、高さも10m以上あると思います。
この場合はブームが水平であれば仰角0~20°までの間でQSOできると思います。
ただし方位を合わせるのが難しいので「見え始め」の時刻と方位から進行方向に20°ほどアンテナを廻して待機しノイズが無くなってキャリアがS4以上になったら呼んでみましょう。
1~2局はQSO可能だと思います。
ただしサイドローブで思わぬ方向でQSOできることがあります。
②V/UHFのアンテナを衛星用にするのであれば、144MHz 5エレメント/430MHz 7エレメント程度のアンテナを仰角30~40°に固定設置しローテータで方位のみ回転するようにします。
↑図4(JARL NEWSより)
すると多くの局とQSOできると思います。
追尾は前記のフリーソフトCALSAT32を使うと便利です。
アンテナをゲインの有る多エレメントにした場合は仰角方向が狭くなってQSOしにくくなります。
■自宅からGPでやってみる?
自宅で1.5mぐらいのGPを使っている局は多いと思います。
仰角10~50°ぐらいまではQSOできる可能性はあります。
偏波が垂直なのでローカル不法局の混信を受けやすくなります。
日曜日及び夜間は混信が無いので多くQSOできると思います。
写真7 自宅のGPの例(クリック拡大)
■移動先のモービルから!
モービル機が自宅で使えるようにV/UHF同時受信モービル機は そのままモービルに付けて衛星通信に使えます。
モービルによってノイズの出方が違うと思いますが144MHzが受信ですのでノイズが非常に多くなります。
ノイズは電源ケーブルにフェライトコアーを数個取り付ければかなり減衰します。
ノイズ対策をしてアンテナをモービル屋根の中央にすればノイズはかなり減衰し仰角10~50°の範囲でQSOできます。
また周辺が開けた広い場所に移動して運用すると大地反射が良くなるためか自宅固定GPよりは良い結果が出ると思います。
↑写真8モービル例(クリック拡大)
特に日曜日及び夜間は混信が無いのでQSOできるチャンスは多くなります。
筆者は日曜日の昼にAO-91で63cmの垂直にしたモービルホイップに出力35Wで1回のオービットで6局QSOできたこともあります。
なおアンテナをモービルの屋根上に横にして付けるとはSWRがメタメタです。
モービルから横に出すとノイズが入ってきます。
できるだけ屋根中央付近に垂直に設置するのが一番良いようです。
場所は河川敷や一般の駐車場は良いと思います。またスーパーの屋上の駐車上などは家族が買い物中の時間つぶしに最適です。hi
走行中もQSOできますが,くれぐれも安全に注意してください。
アンテナ基台は雨が入った経緯が有る古い基台ではSWRが良くても衛星まで電波は届きませんので注意してください。(経験済み)
↑写真9ノイズ対策 ↑写真10アンテナは屋根中央に! ↑写真11 DR-635設定例(AO-91の例)
↑(クリック拡大)
■ハンディ機で挑戦しょう!
FMモード5Wハンディ機でやってみましょう!
無線機はアルインコDJ-G7,ケンウッドTH-D74,ヤエスFT1XD等が使えます。
ここでは一番小型のFT1XDを使ってみます。
付属のアンテナはゲイン不足なので第一電波のSRH770S(70cm)を使います。
↑写真11 ハンディ機FT1XDの設定例 ↑写真12 TH-D74設定例 ↑写真13 アンテナを下に
向けると良い場合もある
基本的な設定はモービル機と同じです。ただし430MHz帯送信中は144MHz帯の受信は停止します。(DJ-F7はUHF送信中もVHF受信可能)
QSOの要領はV/UHFの付いたオールモード機と同じようになります。
オプションのスピーカー・マイク(MH-34)は必ず必要です。イヤホン・マイクでも良いのですが大きな音にすると極端に歪むイヤホンがありますので注意が必要です。
これでスピーカー・マイクを口,耳元にして本体とアンテナを前後左右上下に動かして電波が強くなる所を探します。アンテナを下にすると良くなる場合があります。一番良く聞こえるところに固定してコールします。
混信が無ければQSOできるチャンスがあります。筆者は20回ぐらい挑戦してQSO 5回で7局ほどQSOできました。
特にAO-92は日曜日及び夜間の東側を通る衛星はチャンスがあります。FT1XDを2階の窓から手を出して上下左右に廻して,
強く受信できたところで止めてコールします。この方法でJR7RFF/7局(モービル移動局)と北東方向,仰角14°(1400km)でQSOができました。混信さえ無ければハンディ機でも1,000km以上のQSOが可能です。
ハンディ機は自宅GPやモービルのGPに比べてアンテナを自由に動かせるので受信は有利に働きます。付属ホイップでも受信はできます。
以上のアンテナや無線機のメーカーや型番は一つの例で同じような機能、性能があれば他のアンテナや無線機でも同じようにQSOできるでしょう。ただしメーカーでは衛星通信を想定していませんのでメーカーによく確認してください。
↑写真14 夜間の東側通過が良い!(クリック拡大)
■「いきなり衛星通信・・・・」の "まとめ"
一番は機器の組み合わせに関係なく混信の無い日曜日及び夜間を選ぶことです。組み合わせの中で一番良いのは、TM-D710又はFT-991とA1430S7を仰角40°固定,方位をローテータで回転する。これで仰角30°以上ではかなりQSOできるでしょう。仰角30°以下でも可能性はあります。次に良いのは、TM-D710又はFT-991とDO-11を上向き,エレメント南北方向固定して2階の屋根より上にする。
これで仰角30°以上の東側又は西側を通る衛星はかなりQSOできるでしょう。仰角30°以下でも可能性はあります。次に良いのは、モービルで広い場所、特に大きな池,沼地,や水田地に移動した場合は良いようです。筆者は度々,渡良瀬遊水地に移動します。
ハンディ機、モービル機、オールモード機、2エレメント八木、3エレメント+5エレメント八木など特に小さなアンテナでは混信が無ければ交信のチャンスが大きく広がります。
衛星特有の言葉, 方法をQ&Aにしました。
■衛星通信で「なぜ」混信があるのか?
①アップ混信によるもの。
145MHz帯及び435MHz帯は衛星区分を守らない不法電波が多く出ています。この電波が衛星にアップリンクして相手局又は自局の電波より強い場合は相手局又は自局の電波は抑圧されて聞こえなくなります。特に衛星のFM中継器が67Hzで一旦ONすると1分間は67Hzが無い電波でも継続して中継します。従ってその周波数の日本中の不法電波が衛星の移動と共に次から次とダウンリンクします。たった一つのチャンネルですがウイクデーの日中はそれがワ~ンワ~ンと唸って聞こえます。145MHz帯と435MHz帯全体では何千局でしょうか。特に日本の西側を通る衛星は外国の電波が強く聞こえます。この混信を避けるには日曜日及び夜間の日本の東側を通る衛星を狙うことです。
②ローカル混信によるもの。
衛星区分を守らないダンプカー等のローカル局の不法電波がダウンリンク周波数に直接入ってきて混信します。ダンプカー等のアンテナは垂直に設置した垂直偏波なので自宅に設置するアンテナは水平の水平偏波にして少しでも混信を軽減します。特に大都市周辺ではこの混信が多くなっています。
■FM衛星のCQの出し方
自局:CQサテライト ,自局コールサイン1回(フォネティックはややゆっくり)
5~10秒開ける。誰も出てこなかったら。
同じCQをもう1回繰り返す。
上記のように2回CQを出して応答が無かったら、1~2分以上開けてからCQを出す。
CQやQSOは短時間に簡素におこなうこと。特にHF帯のようにCQの連呼は厳禁です。連呼中に衛星は地球の向こうに消えます!
■衛星通信のQSLカードの書き方
①使用した衛星名を書く。(例: Via AO-92)
②周波数欄は アップリング(送信周波数)/ ダウンリング(受信周波数)と書く。(例∶435/145)
③周波数表記は、144MHz は 145、430MHz は 435又は436と書く。
その他は一般のQSLカードと同じです。アンテナは出来るだけ書くようにしましょう。
QSLカードの発行について:全てのサテライトQSOにカードを発行する必要はないでしょう。
1stQSOだけで十分です。ただしサテライト名やモードが違ったり、何年も経過した場合は出しましょう。
■サテライト専用アワードについて(国内)
サテライト専用のアワードが有ります。(外国で発行しているアワードは除く)
①「JAMSAT 五衛星交信賞」
発行元:JAMSAT(日本アマチュア衛星通信協会)主な要件:5個の衛星を使用して、それぞれ5局、異なる合計25局との交信を行う。詳細はJAMSATのホームページ:https://www.jamsat.or.jp/?p=600
写真15 JASAT発行アワード(A4版)(クリック拡大)
②アマチュア衛星「ふじ」アワード
発行元:JARL
FO-29を利用し異なる10局のアマチュア局と交信(SWLはダウンリンクを受信)し、QSLカードをそれぞれのアマチュア局から
各1枚得る。JARLホームページhttp://www.jarl.org/Japanese/3_Fuji/award/award.htm
ただし、FO-29はFMモードでは使えません。
↑写真16 JARL発行アワード(B4版)(クリック拡大)
■その他の軌道予測方法
・JAMSATのホームページを使った軌道予測の具体解説。ここで説明した内容とほぼ同じです。
https://ja1cpa.jimdo.com/衛星通信/18-アマチュア衛星/
・CALSAT32を使った軌道予測の具体例(アンテナやドップラーシフト補正の自動制御を含む)
https://ja1cpa.jimdo.com/衛星通信/15-calsat32/
・HEAVENS ABOVE(全てのアマチュア衛星)軌道予測一覧表
http://www.heavens-above.com/AmateurSats.aspx?lat=35.1537&lng=140.0098&loc=Unspecified&alt=222&tz=JapST
または HEAVENS ABOVE で検索してください。
詳しい使い方は下記にでています。
http://www.02320.net/search_satellites_with_heavens-above/
HEAVENS ABOVEは24時間で見えるチャンスがある全てのアマチュア衛星が出ています。これは毎日更新されています。仰角もほぼ10°以上になる時刻が書いて有ります。アンテナの方向を固定した場合は使いやすいと思います。この中にAO-91, 92,
85もあります。最高通過点の高度30°以上を見てQSOすることもできます。
←(クリック拡大)
動作中の衛星の状態が分かるサイトもあります。
https://www.amsat.org/status/
←(クリック拡大)
■さらに高度な衛星通信へ!
今回は簡単なアンテナで仰角30°以上を対象にしました。遠方とQSOするためには仰角30°以下の0°付近まで届く範囲のエリアにしてQSOしたくなります。またFMだけでなくCW/SSBの方が遠方まで届きます。代表的な衛星として日本が上げたFO-29が元気に動いています。アラスカ、カナダや北欧とQSO可能になります。
さらに大学で上げた衛星等ではCWビーコンを出しながら地球外へ飛翔しどこまで電波が受信できるか検証したこともあります。その時は筆者も自作の435MHz
14エレメントクロス八木で追いかけて約17万kmまで受信できました。そのためには無線機はサテライト通信モードが付いたIC-9100やFT-847があると便利です。
↑写真17 サテライトモードが付いたIC-9100 ↑写真18 6エレメント/14エレメント ↑写真19 CALSAT32画面
クロス八木アンテナ(円偏波アンテナ)
アンテナは145MHz 6エレメントクロス八木、435MHz 14エレメントクロス八木など、方位ローテータ、仰角ローテータ、145MHz及び435MHzのアンテナ直下プリアンプ、CALSAT32ソフト及びコントロール設備等々が必要になります。
ここまで設備すると自局のアップリンク/ダウンリンクはほとんど混信が障害になりません。むしろオーバーパワーになってしまうので20W以下にしたほうが良いと思います。1日の日中のQSOチャンスもAO-91,92,85が各3~4回、SO-50(FM衛星)が4~5回、FO-29(CW/SSB衛星)が4~5回増えます。その他にも中国で上げた衛星も複数あり、1日の日中にQSOできる衛星の回数は20~30回はチャンスがあります。さらに受信だけならビーコンやデータをダウンリンクする衛星が数多くあり全てを追うことはできません。Webにいろいろ出ていますので検索してみてください。
例:https://ja1cpa.jimdo.com/衛星通信/14-新-サテライト入門/
■衛星からの電波が大きく変動(QSB)するのは?
相手局又は自局の電波の偏波の変化及び大地反射の変化によるものと思われます。
相手局又は自局が直線偏波(通常の八木アンテナ等)の場合は衛星のスピン(自転)によって偏波面が変わって信号の強さが変わります。偏波面の変化による変動はクロス八木を使用するとかなり軽減されます。またこの衛星のアンテナはアップリンク(衛星は受信)とダウンリンク(衛星は送信)が同じ面にあり偏波面は一致しています。
従って地上のアンテナもアップリンク(地上は送信)とダウンリンク(地上は受信)の偏波は一致させるとよいでしよう。
今回の地上局側の低利得アンテナは積極的に大地反射を利用しています。そのためにFMの特性と合わせて大地反射の影響が大きくなっています。衛星の移動と共に大地反射が変わって電波の強さが大きく周期的に増減します。多エレメントの高利得アンテナでは大地反射は低仰角(20°以下)のみに発生します。
■衛星はどのように回っていて通信できるの?
衛星通信するためには, 通信できる衛星が何時何処にくるかを知らなければなりません。通信できる衛星が見える範囲,
すなわち直進する電波が届く範囲にあることが必要です。太陽は地平線から出て頭上周辺を通り地平線に沈みます。その間は直進する光が地球上に届きます。衛星もこれと同じように地平線から出て頭上付近を通り地平線に沈みます。
その間は直進する電波は地球上に届くことができます。その電波が届く範囲は地球上を移動して行きます。ただし太陽と衛星の違いは, 太陽は地球の自転によって東から出て西に沈みます。衛星は地球をほぼ南北に廻っているので,南から北に,
又は北から南に移動します。衛星が地球を一周する時間は高度約500kmで約90分程度です。
■どのようなアマチュア衛星があるか!
衛星通信するためには中継器搭載衛星でなければなりません。近くにあるレピーターが衛星に乗って地球を回っているような状態です。衛星に搭載されている中継器はFMの他にCW/SSBを中継する衛星も有ります。1974年に上がったAO-7はCW/SSBを中継する本格的な衛星です。それから長い間CW/SSBを中継する衛星が多かったのですが電源の効率化等によって最近はFMを中継する衛星が増えています。今回はこのFM中継器搭載衛星を使ったQSOにチャレンジしました。
←写真20 FO-29まだまだ元気な日本製
これとは別に大学などが研究用に上げている衛星が沢山あります。この衛星もアマチュア無線の衛星区分に従った電波を出しています。その関係もあって多くのアマチュア無線家が支援しています。通常はCWによるビーコンを出していますが地上からのコントロールによりFSKでデータを降ろしたりしています。その周波数や電波型式は公表されていますので興味がある人は各大学のホームページを参照してください。なおJAMSATのホームページには各衛星の軌道予測及び各大学等の打上げ機関のホームページにリンクが張られたサイトがあります。前記の衛星の軌道予測から入れます。
■アマチュア衛星のカバーエリア
衛星の高度は大地に垂直な衛星までの高さです。カバーエリアは衛星の電波の届く範囲ですから、衛星の高度と関係してきます。衛星の高度が高ければカバーアリアは広くなります。しかし地球は丸いので限度があります。衛星の高度が500kmの場合は半径約2,500kmとなります。しかしこれは地球上から衛星を見たときに衛星が地平線と同じ高さの範囲です。実際には山などが有って平坦な場所でも仰角5°ぐらいにしています。今回はアンテナの能力を考えて仰角30°としました。この場合の見通しは衛星の高度が500kmで半径約900kmとなります。この900km先の上空に衛星がある時はその先900kmまでカバーすることになります。従って1,800km先とQSOできることになります。仰角5°の範囲は半径約2,000kmと仰角30°の場合の約2倍になります。一瞬ですが4,000km先とQSOできることになります。
■ドップラーシフト(効果)
衛星の速度が電波の速度に対して無視できないほど速いので、衛星からの電波を地上で受信すると聞こえ始めは規定の周波数より高く聞こえます。その電波が聞く人に一番近づいた時は規定の周波数で聞こえます。さらにその電波が聞く人から遠ざかって行くと規定周波数より低く聞こえます。この現象をドップラー効果と云います。
衛星通信するためには、このドップラー効果によって変化する周波数を地上から補正して通信する必要が有ります。しかし今回使ったFM中継器搭載衛星にはその周波数補正を衛星に搭載されたAFC回路が行ってくれます。従って今回はドップラー効果を考えなくて衛星通信ができます。
■アクセストーン
衛星のアップリンク(地上から送信)には67Hzトーンを重畳して行います。一般のレピーターが88.5Hzを重畳するのと同じです。
■ビーコンモード
衛星は地球を周回する間は何らかの方法でその所在を明確にする必要が有ります。一般的には一番簡単なCWで衛星のコールサインや衛星の動作状態等を送信します。しかし今回使った衛星はFMの中継器が搭載されているために中継器が動作停止している時にはFBなYLの音声を出すことによってその所在を明確にしています。
これは、主に太陽電池でバッテリーを充電している時にFM中継器の動作を停止し、YLの音声を2~3分に1回5秒間ぐらい出すことを「ビーコンモード」と云います。
このビーコンモードは利用が比較的少なくなるウイクデーに行われることが多くなります。しかしバッテリーの消耗が激しい時は随時行われます。
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小学生がアマチュア無線の免許を取って最初に買ってもらうのがV/UHFのFMハンディ機でしょう。このハンディ機で最初の交信が衛星通信だったら、その子は一生アマチュア無線から離れられなくなるでしょう。このFox-1シリーズの衛星はその可能性を秘めています。
筆者はアマチュア無線で3つのドキドキを経験しました。
一つ目はアマチュア無線の免許を取得して初めてのQSOでした。
二つ目は海外局との初めてのQSOでした。
そして3番目のドキドキが衛星によるQSOでした。
彼方もこの3つ目のドキドキを体験してみませんか!。
JA1CPA