b.05  同軸ケーブルによるスタブ・マッチングの検討                                      2013/5/22(2018/1/11) 
(ヘアピン・マッチング)                                 

               
アンテナを共振させて、アンテナインピーダンスを50Ωにするために、いろいろなマッチング方法がある。
その中でもヘアピン・マッチングは、アンテナインピーダンスが50Ω以下のアンテナに適していて、本やWebでいろいろ説明されてる。
しかし、計算式が似たような記号で表示されていて頭が混乱したり、間違えがあったりでQRMぎみであった。
そんなときに、CQ誌2007年6月号、7月号にJA1FGB OMが明快に説明している資料が見つかった。
そのCQ誌では、並列接続を求めるのにモノグラフを使っているが、ここでは原理を理解するために算数で計算する方法をとった。
また、ヘアピン・マッチングのショートバー方式はV/UHFでは調整しにくいので、同軸ケーブルを先端開放にして容量性リアクタンスとして使う方法を検討した。
ここでは、430MHz帯の衛星通信に使用する八木アンテナを検討する。
これはヘアピン・マッチングと云うより スタブ・マッチング と云うべきか。
ここに自分の備忘録の意味を含めて記述する。

まず、はじめ に、エレメントの 長さ、太さ、と 共振周波数の関係について!

  上の写真は、ラジエータの給電部の拡大である。下から給電同軸ケーブルが来ている。
エレメントの長さは、A+B+C+D+太さ の合計となる。
従って、シミュレーションの寸法は、A+Bであるが、それにC+Dが加わり、さらにねじ頭等凹凸が加わって、実際の共振周波数は、シミュレーションした周波数より低くなる。  
C+D+太さは、HF帯では、無視できるがUHF帯では大きく影響する。
アンテナの共振周波数は、ほぼ導体の表面積に反比例すると考えられる。
裏技?:ラジエーターエレメントを切りすぎた場合は、上写真の C D を長くする!。(少しは下がる)

★検討経過
アンテナ長が共振周波数より短いと容量性リアクタンスになるので、誘導性リアクタンスをアンテナ給電点に並列に付けて、アンテナのリアクタンスを打ち消して共振状態にして、さらにインピーダンスZを50Ωにする。
一般的なヘアピン・マッチングは、この状態で使う。

アンテナの長さが共振周波数より長いと誘導性リアクタンスになるので、容量性リアクタンスをアンテナ給電点に並列に付けて、アンテナのリアクタンスを打ち消して共振状態にして、さらにインピーダンスZを50Ωにする。
ここでは、この方式を先端を開放した1/4λ以下の長さの同軸ケーブルを使って行う方法を検討をする。

                            
ルート
抵抗とリアクタンスが直列接続されたインピーダンスZは、Z=√(Rs²+Xs²) で計算される。

1.これを、給電点に並列に容量性スタブを付けて共振周波数とインピーダンスを合わせるためには、抵抗とリアクタンスが直列接続されたイン

  ピーダンス Z を、並列接続にして同じ Z にする必要が有る。
2.すなわち、直列接続されたアンテナのインピーダンスZ(下図は左側のRと表記)と、50Ω同軸ケーブルと並列接続したインピーダンスをZ(下

  図は右側のRと表記)にする。
3.別の表現をすると。50Ω同軸ケーブルに何を並列接続すれば、アンテナインピーダンス(下図では17.325Ω)と同じに出来るか、を計算した

  ら27Ωとなった。この27Ωを必要な周波数で容量性リアクタンスで実現する。

    
計算式:sは直列、pは並列を意味する。        Rp=同軸ケーブル(50Ω)







あるアンテナをAA-1000で410MHzで測定したら、直列接続値
Z24.0=R 19.7+X 13.6 となった。
このAA-1000は並列接続値も表示されている、Z 24.0=R 29.1+X 42.2となっている。
R: 、X:、L:、は直列接続値、 |Z|はインピーダンス、
R||:、X||:、L||:、は並列接続値



以下の計算はエクセルでやると間違えない。


上記の並列接続値を計算すると、抵抗とリアクタンスが並列の計算式は、Z = 1/√((1/Rp)²+(1/Xp)²)なので、
Z = 1/√((1/29.1)²+(1/42.2)²)=24.0Ωとなり、上の表示通り直列接続値
Zと同じになった。

ある長さのアンテナの周波数fにおけるインピーダンスZは、Z = Rs ± jXs(Ω)と直列接続された状態で測定される。(AA-1000では、直列と並列と両方が表示される)    
計算式:sは直列、pは並列を意味する。
アンテナとして働くためには、アンテナ給電点インピーダンスRp=50(Ω)、 リアクタンスXp=0、としたい。

アンテナ給電点に同軸ケーブルを使ったスタブ(Xp)を並列に付けたいので、Rを50Ωに設定して、これとXp(スタブ)を並列接続して直列接続と同じインピーダンスZにするためのXpを求めるには、Z=1/√((1/Rp)²+(1/Xp)²) から、Rp=50(Ω) を入れて展開すると、Xp(スタブ)は、となる。
 ↑Xp=1/√((1/Z)²-0.0004)     →  →  →  →  → エクセル =1/(SQRT((1/Z)^2-0.0004))

 
計算例1、直列接続インピーダンスZ=24.0Ωなら、Xp=1/√((1/24.0)²-0.0004)=27.36Ω となる。
このアンテナの場合は、27.36Ωのリアクタンスをアンテナ給電点に並列につなげば良い。

計算例2、直列接続インピーダンスZ=17.2Ωなら、Xp=1/√((1/17.2)²-0.0004)=18.318Ω となり、アンテナ給電点に並列に18.318Ωのリアクタンスを接続すれば、給電点インピーダンスZは、共振周波数で50Ω となる。

なお、アンテナ給電点に並列につなぐリアクタンスは、共振周波数よりアンテナが長ければ誘導性なので容量性リアクタンスをつなぎ、共振周波数よりアンテナが短ければ容量性なので誘導性リアクタンスをつなぐ。

リアクタンスから、インダクタンス(誘導性)及びキャパシタンス(容量性)を計算するのは、 L=Xp/ω=Xp/(6.28×f (MHz)) [μH]、 

C=1/ωXp=1/(6.28×f (MHz)×Xp) [pF]、435MHzにおける Xp=18.318Ωは、容量性リアクタンスなら、C=19.9836=20pF と計算される。

(参考:モノグラフを使う時に必要)

直列接続を並列接続に変換する式は、Rp=(Rs²+Xs²)/Rs   Xp=(Rs²+Xs²)/Xs、となる。

★作ってみました  製作模様(435MHz 4eleYagi)
1.シミュレーション(MMPC)
 
 このシミュレーションでは、ラジエータ長=φ6×320mm、R=17.2Ω、jX=-0.7Ω、と435.0MHzに共振しているが、インピーダンスが17.2Ωと低

 く、これを50Ωにアップして同軸ケーブルを直接つなぎたい。


2.容量性リアクタンスを同軸ケーブルスタブで検討する  
  まず、はじめ に、エレメントの 長さ、太さ、と 共振周波数の関係について! を思い出す。(一番上に記述)
   
エレメントの長さは、シミュレーション長 320mmに+20+20+10
(太さ)=370mmと想定した。








ここで、ラジエータ長370mmでシミュレーションすると。
共振周波数:399.85MHz、R=25.5Ω、 jX=0.0 となった。
直列接続インピーダンスは、Z=√(Rs²+Xs²)なので、Z=√(25.5²+0²)=25.5 Ω

直列接続インピーダンスZ=25.5Ωなら、
並列接続インピーダンスは、Xp=1/√((1/25.5)²-0.0004)=29.65Ω となり、アンテナ給電点に並列に接続すれば、共振周波数435MHz、給電点インピーダンスZは、50Ω となる。(はずである)

リアクタンスから、インダクタンス(誘導性)及びキャパシタンス(容量性)を計算するのは、 L=Xp/ω=Xp/(6.28×f (MHz)) [μH]、  C=1/ωXp=1/(6.28×f (MHz)×Xp) [pF]、 
435MHzにおける Xp=25.5Ωは、誘導性リアクタンスなら、L=0.0109μH となる。
435MHzにおける Xp=25.5Ωは、容量性リアクタンスなら、C=12.35pF となる。

シミュレーション通りの寸法(320mm)で作ったが

アンテナ単体(同軸ケーブルによるスタブなし)でSWRを測定したら左写真。
435MHzSWR6.3、共振周波数と思われるSWR最低点(2.1)は、400MHz付近で、ラジエータ長370mmでシミュレーションした、399.85MHzに近い値となっている。






           

 ↓同軸ケーブルスタブを付ける (左側が給電用、右側がスタブ)

給電線:1.5D-2V、435MHz2λ電気長(以下同じ)


下記は参考までに!
誘導性リアクタンス、L=0.0067μH
コイル径:φ3mm、線径:φ1mm、コ
イル巻き数:1.457回、
線長:13.72mm、なので同軸ケーブ
ルスタブの端子部分だけで
0.0067μHになっている模様。







同軸ケーブルスタブの調整
同軸ケーブル(1.5D-2V)を100mm付けて、切って行ったら430MHzでSWRが低下し、さらに
2/1/0.5mmと少しずつ切って最終的に、左写真のように435.88MHzでSWR1.08になった。
ラジエータ長は、320mm(370mm)のまま。

同軸ケーブルスタブ(先端開放)、
1.5D-2Vスタブ単独の測定値 (長40.0mm+端子部19.0mm)
Z=21.4Ω、R=0.0Ω、X=-21.4Ω(上記の計算値 29.63Ω)
C=17.1pF(上記の計算値 12.35pF



 この同軸ケーブルスタブは、誘導性、容量性リアクタンスを相互的に含めて長さが決まっている模様。


3.容量性リアクタンスをコンデンサーで検討する。
 セラミックコンデンサーだけを直接、給電点につないで測定した。
  10pFの場合
 SWR最低周波数409.88MHz  SWR2.1
 Z=23.5Ω   R=23.5Ω  X=0.3Ω  L=0.1nH  R||=23.5Ω  X||=1119.2Ω  L||=741.7nH
  22pFの場合(上記の計算値C=19.984pFに最も近い)
 SWR最低周波数406.280MHz  SWR1.06
 Z=53.1Ω   R=53.1Ω  X=0.0Ω  R||=51.4Ω  X||=∞  L||=71622.9μH
  47pFの場合
 SWR最低周波数405.080MHz  SWR1.23
 Z=61.3Ω   R=61.3Ω  X=-0.2Ω  C=1719.8pF  R||=61.3Ω  X||=∞  C||=0.0
計算値のC=19.984pFに最も近いC=22pFが最も良い結果となった。
ただし、SWR最低周波数(ほぼ共振周波数) が、同軸ケーブルスタブに比べて、約30MHz低くなった。

コンデンサーのリード線が約20mm有り、これがコイル径:φ2mm、線径:φ0.3mm、コイル巻き数:1.5189回、
コイル線長:9.54mmが誘導性リアクタンス、L=0.0067μH となるので、誘導性リアクタンスなら、L=0.0067μH
と、容量性リアクタンスなら、C=19.984pF が混在していることになる。


4.誘導性リアクタンスをヘアピンで検討する
計算では、435MHzにおける Xp=25.5Ωは、誘導性リアクタンスなら、L=0.0109μH となっている。
これを、コイル計算すると、コイル径:φ5mm、線径:φ0.3mm、コイル巻き数:1.07回、線長:16.8mmとなった。
これは、前記セラミックコンデンサー22pFのリード線(足)をコンデンサーのところで捻って、コンデンサーを切った線長は23mm。

         写真

 ほとんど、ショート状態になった。   
 ⇒   ⇒  405.290MHzでSWR1.01 帯域は狭い!


コイル径:φ3mm、線径:φ1mm、コイル巻き数:1.457回、線長:13.72mm、
これもやったが、
数値は左写真とほぼ同じになった。
ラジエーターエレメントを短くして周波数調整した。
435MHzでは、長さの加減が微妙で調整はかなり難しい。(290mmぐらいになった)
433.9MHz、10Wで送信したら、SWR1.2ぐらいで、ほぼシミュレーションと同じだった。

5.再び、容量性リアクタンスを同軸ケーブルスタブで検討する  
シミュレーションでラジエータとディレクタの間隔を65mmから120mmにして、
ラジエータ長=φ6×318mm、R=32.9Ω、jX=-0.4Ω、と435.0MHzに共振させ、R=32.9と前回の約2倍にした。

結果は、 スタブ長40.0mm+端子部19.0mm2.より短くなった。
スタブ単独測定値(435MHz)Z=28.3Ω、 R=0.0Ω、X=-28.3Ω、C=12.9pF
ラジエータ等、アンテナ長さ間隔はシミュレーション通りの寸法になっている。
 
 帯域幅は、2.とほとんど同じ。(左写真は2.より帯域幅が2倍目盛り)

6.考察(ぶつぶつ、と)
UHFでは、給電点同軸ケーブルの給電点接続部分、ラジエータの取り付けねじ部分等の長さや太さがエレメントの長さに大きく影響する。
従って、シミュレーションのラジエータの長さで、同軸ケーブルスタブを付けると、ちょうど良い容量性リアクタンスとなり、その他の誘導性リアクタンスも含めて総合的に調整されてしまう?ことが分かった。

ヘアピン・マッチング、スタブ・マッチングは主にHF帯で使われている。
特にヘアピン・マッチングは先端がショートしているので電気的にグランドに接続できて、風雨の影響を受けにくい。
一方今回検討した先頭が開放された同軸ケーブルスタブは、430MHz帯でも調整が簡単で安定している。
しかし、先端を絶縁処理しても風雨の影響を受ける。

また、SWRの変動は共振周波数より高い方が急激に悪くなるので、シミュレーションでは、使用周波数より少し高く設定する必要が有る。
今回検討したのは、衛星通信に使う目的のアンテナなので、帯域は狭く、その目的には適していると思われる。

容量性リアクタンス:同軸ケーブルスタブの比較(前記、2.5.の比較)
シミュレーション ラジエータ=320mm、R=17.2Ω、jX=-0.7Ω
実測値↓
スタブ長40.0mm+端子部19.0mm
Z=21.4Ω
R=0.0Ω
X=-21.4Ω、(並列接続してインピーダンスを50Ωにする容量性リアクタンス、計算値:29.65Ω
C=17.1pF、 (上記の計算値 12.35pF

シミュレーション ラジエータ=318mm、R=32.9Ω、jx=-0.4Ω
実測値
スタブ長35.0mm-端子部19.0mm

Z=28.3Ω、
R=0.0Ω
X=-28.3
Ω、(並列接続してインピーダンスを50Ωにする容量性リアクタンス、計算値:43.691Ω)
C=12.9pF、 (上記の計算値 8.357pF)

上記、比較に対する考察
1a.は、共振したインピーダンスR=17.2(Z=17.2)Ωにするための50Ωと並列のリアクタンスXpは2a.より低くなる。
2a.は、共振したインピーダンスR=32.9(Z=32.9)Ωにするための50Ωと並列のリアクタンスXpは1a.より高くなる。
Xpを低くするためには、同軸ケーブルスタブ(1/4λ)を長くして、共振周波数を低くする。
Xpを高くするためには、同軸ケーブルスタブ(1/4λ)を短くして、共振周波数を高くする。
従って、同軸ケーブルスタブは、1a.より2a.が短くなる。

左写真は、2a.で使った35+19の同軸ケーブルスタブである。
共振周波数は、575MHz付近で、435MHzでは容量性リアクタ
ンスとして働く。
1a.で使ったものは40+19と、これより長いので共振周波数
が低くなり、435MHzの容量性リアクタンスは小さくなる。
中心から左側のミドリ線が全体的に左に寄って435MHzでは
0線に近くなり、の値が小さくなる。




結論的には、共振周波数のインピーダンスが低いほど、並列につなぐXpが小さくなって同軸ケーブルスタ
ブが長くなる傾向になる。

ただし、アンテナ自身のインピーダンスが低いと云うことは、周囲の環境条件によってインピーダンスが変動する
割合が大きく、全体として安定したアンテナになるか確認が必要である。

シミュレーションのラジエータの長さで、同軸ケーブルスタブを付けると、ちょうど良い容量性リアク
タンスとなり、その他の誘導性リアクタンスも含めて総合的に調整されてしまう?らしい!。

課題
帯域を広くして、雨による影響を軽減することが必要。
                                                以上
どこかで間違えているかな?、どこかで勘違いしているかも!

それにしても、アンテナ・アナライザーAA-1000が無ければ、この検討は出来なかった。便利、便利!
AA-1000は、何百回、何千回も使っている。アンテナを接続するN型コネクターが接触不良気味である。
もう少し使ったらN型コネクターを交換しよう。交換はあまり難しくないようです。                        
                                                    おわり