19. ダイポールで衛星通信を! <Fox-1> (2018/3/11 JASATシンポジウム 講演資料) 2018/4/18
「1」ここでは、最近打上げられた<Fox-1シリーズ>を使って簡単に衛星通信ができる状況をSATをQRTしている人、及び衛星通信入門者向けにお話ししたいと思います。
ここにも書いて有りますが、ダイポールアンテナのようなものにオールモード機、モービル機あるいはハンディ機を繋いで衛星通信をやろうというものです。
「2」は簡単な自己紹介です。
「3」衛星通信と云いますと、まずアンテナ及びそのコントロールが思い浮かぶと思います。
昔から写真のような多エレメントのクロス八木に方位ローテータ及び仰角ローテータが必要になります。これは入門者やマンションなどにお住いの人には大きな障害になっていると思います。しかし、今回はそのようなアンテナが不要になった衛星が上がりました。
ここでは、実例を主体にそのお話をさせて頂きます。ちなみに、この写真の左側は2年前まで使っていたものです。右側は現在私が使っているアンテナで地上高3mです。
「4」非常に使い勝手の良かったAO-51が機能停止してしばらく経ちますが、最近<Fox-1シリーズ>としてAO-85,AO-91,AO-92の3つの衛星が上がりました。
アップリンクが435MHz帯、ダウンリンクが145MHz帯です。
周波数の関係はここに書いた通りです。AO-92のアップリングの周波数は435MHz帯と1200MHzを切り替えて運用されています。モードはFMでトーン67.0Hzを重畳しますが、一度トランスポンダが起動するとしばらくはトーンが無くてもアップリンクします。衛星のEIRPは500mWとなっていると云われています。
衛星はドップラーシフトが有るのでアップリンク周波数を±10kHzぐらい可変する必要が有りますが、このFox-1シリーズの衛星はその必要が無く指定周波数固定で良いようです。
先ほどのスカイプでドップラーシフトのアップリンク周波数等々について説明が有りました。これは事前に毛利さんを通じて質問させて頂きました。
①ドップラーシフトはAFCで補正するので、アップは指定周波数で可変しなくて良い。
②アンテナはアップとダウンが一直線で同じ偏波にしている。
③67Hzは最初起動すると1分間継続し、その間は67Hzが無くてもアップするが、これは変更できない。と云うものです。
Fox-1シリーズは受信感度が良くアップリンク周波数固定と云う非常に使い勝手の良い衛星です。
またアップ/ダウンの偏波は一致していて、ハンディ機などではダウン最大とのところでアップすれば良いことになります。そのためにアップ/ダウンのアンテナの偏波は一致させる必要が有ります。
ただFM衛星の宿命ですが、不法局と思われる電波が国内外から発せられ、これがダウンリンクして聞こえてきます。前述のようにトランスポンダが起動するとトーンが無い電波もアップリンクしてしまいます。従ってアップリンクはこの信号より強くしないとマスクされてダウンしません。
3月2日にこのDO-11とFT-991で北海道の局とEL8°1800kmでQSO出来ています。この時は混信が全く無い状況でした。
次からは実例について説明します。
またアンテナを繋ぐコネクターはFT-991の場合は145MHzと435MHzが共用で一つです。ここに145MHzと435MHz供用アンテナとしてナガラ電子から出ている2バンド2エレメントのDO-11と云うアンテナを上向きに使いました。写真左
「6」HFを やった ついでに HF感覚で!
オールモード機でアンテナはDO-11を上向き固定します。方向はエレメントを南北にします。指向性は東西になります。・モードはFM。UHFのトーン周波数を67.0Hzに設定。・スケルチはVHFのみオープン。・スプリットを使って、VFO-AをVHF、 VFO-BをUHFに設定します。
すなわち、AO-92ならアップリンク周波数435.350MHzをVFO-Bに、ダウンリンク周波数145.880MHzをVFO-Aに設定します。この周波数は固定したままです。
・アップ/ダウンの周波数とMEL時刻を調べてメモします。・通常のQSOとおなじように聞こえたら短くコール(自局のコールサインをゆっくり1回)します。(EL30<1回のオービットで1局QSOできる確立=応答率は30~50%)
・送信中は受信停止します。 (「自局のダウンリンクを聞きながら」と、あまり硬いことは言わない) 他局がコールしているのが聞こえたら待ちます。根気よく短くコールしてください。・聞こえても応答が無い場合も多多有ります。HFの場合はパワーの違いで届かない場合が有りますが、衛星通信の場合はアップリンクとダウンリンクの周波数や偏波や反射等々の違いでダウンリンクしたから必ずアップリンクするとは限りません。
「7」次はモービルFM機の場合です。基本的にはオールモード機と同じです。ただモービル機の場合はデュアルバンドと称してUHFとVHFの周波数の両方が表示されていてもUHFとVHFが同時受信できないもの(FTM-100ヤエス)が有ります。ここに出ているケンウッドのTM-D710(50W)、アルインコのDR-635(35W)とDR-735(50W)はUHF送信しながらVHF受信ができます。操作性はDR-735が一番簡単なようです。周波数ステップはU/VHF共に5kHzにします。UHFのトーン周波数を67.0Hzに設定。スケルチはVHFのみオープンにします。UHFの音量調整ボリュームは最低にします。受信はヘッドホンを使います。オールモード機と同じように使えると思います。
「8」次はアンテナを自作した例です。左上のアンテナは昨年JAMSATのニューズレターに掲載した2バンドクロスダイポールです。
左下のアンテナはVHFはV字ダイポールにして75Ωを50Ωにしそれに90°にUHFダイポールを水平にしてVHFのV字ダイポールに並列接続したものです。UHFダイポールは3倍波長のVHFのV字ダイポールが並列接続されたので75Ωが50Ωに低くなります。このアンテナは上のクロスダイポールより少し悪い感じですが何局かQSOしています。
注)アップリンクとダウンリンクのエレメントが90°違います。スカイプでの質問では同一偏波にする必要が有るのでこの方法は適しません。
「9」水平系のダイポールは大地反射の影響を大きく受けます。そのためにピークのゲインも有ります。左下のシミュレーションバターンのように水平方向は円に近いのですが、垂直方向は衛星の通過とともに信号がおおよそ5~10秒間隔ぐらいで大きく変化します。
例えば145MHzの3エレメント八木を上に向けてNOAAの信号を受けると、このパターンに合わせて大きな縞模様が出ます。
「10」この図の一番上は3エレメントHB9CV水平スタックを30°上向きに固定したシミュレーションパターンです。大地反射で細かく変化しています。
真中の写真(図)は、何年か前ですがこのアンテナでAO-51の連続電波を受けてSメーター(アナログ)電圧をデータロガで記録し、エクセルで加工して表示させたものです。「絵」としては全く同じ模様になっていると思います。
下の写真のアンテナは、この大地反射ゲインはそのままで反射を軽減するようにダイポールに反射器を付けた2バンド2エレメントにしたものです。
注)アップリンクとダウンリンクのエレメントが90°違います。スカイプでの質問では同一偏波にする必要が有るのでこの方法は適しません。
「11」この2バンド2エレメントアンテナの性能表と寸法図です。作る場合は参考にしてください。
冒頭のナガラ電子のDO-11は、このアンテナを使った後にメーカー製が無いか探したらでてきたものです。他にも2バンド3エレメント等が有ると思います。それなりに使えると思いますが多エレメントを上向き固定に設置するとゲインは有りますが使える範囲が狭くなります。
注)アップリンクとダウンリンクのエレメントが90°違います。スカイプでの質問では同一偏波にする必要が有るのでこの方法は適しません。
「12」これは前の2バンド2エレメントアンテナのシミュレーションパターンで落ち込みが少なくなっていると思います。上の図が145MHz、下の図が435MHzです。
注)アップリンクとダウンリンクのエレメントが90°違います。スカイプでの質問では同一偏波にする必要が有るのでこの方法は適しません。
「13」これは垂直のGPですが、ほとんどQSOできません。最後に時間が有ればシミュレーションパターンを出しますが50°から上がほとんどダメです。
「14」モービルは145MHzのノイズがS5~8です。そのためも有って垂直はほとんどダメです。写真のように横にしましたが7回(オービット)ほど挑戦しましたが1局のみQSOできました。
なおノイズは車によって変わると思いますが、この車は高速道路走行中はS0~4まで頻繁に変化していました。
注)
1. その後の検討で電源ケーブルにフェライトコアーを数個いれるとノイズが減衰します。
2. アンテナは垂直のままの方が良い結果が出ます。
「15」モービル機を自宅などで使う場合のまとめです。読んでもらえれば分かると思います。
「16」次にハンディ機でQSOする場合につて説明します。
ハンディ機はTH-D74(5W)又はDJ-G7(5W,フルデュープレックス)。アンテナはダイヤモンドのSRH770S,70cm又はSRH940,45cmを使っています。これでも5~6局QSOしています。応答率は10%程度です。
ハンディ機の特徴は、電波の「かたまり」を求めてアンテナを動かしながら移動できることです。
1m移動すると良くなったり悪くなったりしますが、衛星も動いていますので安定しません。
ただ最大の障壁は内外局のアップ混信です。435MHz受信の場合は国外局が多かったのですが、145MHz受信(435MHzアップ)の場合はトーン不要も有って大部分は国内局です。
注)混信があるとQSOできません。
「17」解決策として、435MHz は4エレメントのアルプラアンテナ、145MHzは50%短縮した3エレメントを作りました。アップリンクとダウンリンクを2台のハンディ機でやりました。それなりにQSOできました。
注)混信があるとQSOできません。
「18」この435MHzと145MHzを1本にして1台のハンディ機にしたものです。
アンテナの合成はデュープレクサを使えば良いのですが大きすぎるので同軸ケーブルを直接並列接続しました。
ここでチョット話題を変えて、ハンディ機のイヤホンの明瞭度ですが、TH-D74はそれなりに良いのですが、DJ-G7は明瞭度が非常に悪いです。そこでイヤホンマイクのイヤホン部分に少し高級なヘッドホンをつけました。明瞭度は良くなりましたが、DJ-G7はフルデュープレックですが送信中に200~300Hzの「ブー」と云う音が大きく聞こえます。これをカットするためにそれなりのイヤホンにした感じです。それでも「ブー」の中からダウンリンクが聞こえました。
TH-D74はU/V同時受信出来ますがUHF送信中はVHFは無音になります。
話を戻しますが、右側が2本の同軸ケーブルを合成して1本にして ハンディ機に繋いだところです。「QマッチT接続」と書いて有ります。
「19」もうお気付きの方もいらっしゃると思いますが、ここでその原理をチョット説明します。
左の図は145MHzアンテナを140MHzから440MHzまでシミュレーションしたアンテナインピーダンスです。左端の145MHzでは50Ωですが、435MHz付近では約500Ωになっています。
右の図は435MHzアンテナを140MHzから440MHzまでシミュレーションしたアンテナインピーダンスです。右端の435MHzでは50Ωですが、145MHz付近では0Ωになっています。
これで分かるように、145MHzアンテナには435MHz1/2λ整数倍長の同軸ケーブルを、435MHzアンテナには145MHz1/4λ整数倍長の同軸ケーブルを接続し、それを並列接続すれば、接続されていても互いに影響しないことになります。Qマッチの原理です。
145MHz、435MHzの信号を受けながら反対側の同軸ケーブルを付けたり離したりしてもSメーターの変化は有りません。(多少のロスは有ると思いますが)
注)全てのアンテナで、このように出来る方法ではありません。
「20」この接続のSWRです。上側が単独に測定したものです。下側が合成した時のSWRです。少し影響が出て悪くなっていますが、これでもQSO出来ています。プロはこんな事は絶対にしないでしょうね!。だからアマチュア無線はおもしろい!
「21」全体のまとめです。AO-85は楕円軌道なので少し難しい感じがします。145MHz4エレメント/435MHz7エレメント程度のアンテナを45°にして方位を回転すれば応答率80%程度ぐらいにはになるでしょう!。この程度の局も沢山います。また受信を改善するには無線機の前に自動切換えの10dB程度のプリアンプ(川越無線、品番007、スタンダード、144MHz、10dBに調整、28,000円+送料)を付けると良いでしょう。
注)混信があるとQSOできません。
この混信を避けるためには日曜日及び夜間の日本の東側を通る衛星を狙うと良いでしょう。
「22」この写真に出ているように、どんな組み合わせでも衛星通信ができます。SATカンバック組、SAT入門者、“ 聞こえたら呼ぶ!!!”
衛星通信と云うのは、本来は「安定した通信」を実現する手段ですが、われわれアマチュアは「安定した通信」は好みません。「合理的な不安定?を望み」それを「解決するところに面白さが有ります」!
2月は寒さを忘れて、以上のようなことをしていました。
ご静聴ありがとうございました。
注)は、この掲載時に追加した部分です。
JA1CPA